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第3回「けんか」

まさのぶくんは、見るからに頼もしい感じのする男の子でした。体は大きいし、頭もいい、性格もおっとりした子……のはずでした。ところが、いつの間にか保育園随一のけんか大将になってしまっていたのです。なにかにつけて、すぐ友だちをなぐる、ける、ひっかく、かみつく、砂をかけるというありさま。体の大きな力のある子がやることなので、そのたびに被害は甚大。やられた子はたいてい大泣きしなければなりませんでした。

いつの間にが、そのことがお母さんたちの間にも知れ渡り、「まさのぶくんとは遊ばないように」と、子どもたちに言い含めるようになってしまったのです。まさのぶくんのお母さんも肩見が狭い思いなのか、お迎えにきても他のお母さんたちには、ろくに挨拶もせず、そそくさと連れ帰るような状態だったのです。孤立したまさのぶくんは、ますます粗暴な振る舞いが多くなっていきました。

ある日のこと、私がふと園庭を見ると、また、まさのぶくんがけんかを始めています。ブランコのそばで、相手は十二、三人もいるでしょうか。私はしばらく様子を見ることにしました。まさのぶくんが、やにわに砂をつかんで、みんなのほうにパツとなげる。と、遠くにいる保母に向かって告げ口する子がいるのです。
「せんせーい、まさのぶちゃんがまたけんかしてる」
すると保母は、遠くから声をかけます。
「まさのぶちゃーん、やめなさい」

まさのぶくんは、ふくれっ面をしたまま、それでも砂をなげるのはやめて、ブランコをこぎはじめました。ところが、数分もたたないうちに、またブランコを飛び降りたまさのぶちゃんは、十二、三人めがけて砂をなげたのです。「せんせーい」と、またいいつける友だち。「やめなさーい」と怒鳴る保母……まったく同じことのくり返し。そして、いっこうにけんかは終わりそうにないではありませんか。

わたしは園庭に出ると、その一団の子どもたちを職員員室に呼び入れました。
「いまのこと、はじめから先生に話してちょうだい」
すると、まさのぶくんとやりあっていたひとりの男の子が、ロをとがらせて、わけを話しはじめたのです。
「まさのぶくんが、ふみこちゃんに石をぶつけたんた。ホラ、おでこが赤くなっているでしょ。たから、ボクたちが注意したら、ボクたちにも砂をかけたんだ」
「ちがうよ!最初がちがうよ!」
そのとき、まさのぶくんがつっかかるような勢いで叫んだのです。興奮で、まっ赤なほほが、ふくらんでいます。

「ボク、ひとりでブランコに乗ってたんた。そしたら、あきおちゃんたちがきて、話かけたから、ブランコ降りて、ブランコの綱をもって話ていたんた。そしたら、ふみこちゃんがきて『のせて』って、言うから、ダメっていったのに、ブランコ乗っちゃったんだ。ボクは『ブランコかえして』って三回言ったけど、降りてくれないから、石投げたんだ」
せきこんで言葉をつぐまさのぶくんが話し終わらないうちにワッと泣き出したのは、なんとふみこちゃんだったのです。
「あたしがいけなかったの。だってまさのぶくんがイヤッて言うのに、降りてって何回も言ったのに、降りなかったから」
そういってしゃくりあげるふみこちやんを、十三人の友だちはびっくりして見つめていました。

そこで、私はあらためて尋ねてみたのです。
「みんな、まさのぶくんがほんとうに悪いと思う?」
子どもたちはいっせいに頭をふって
「ううん、悪くない」「いつもは悪いと思ってたけど、今日聞いたら悪くない」
などと、ロぐちに答えたのです。私はもうひとつ、尋ねてみました。
「みんながもしまさのぶちゃんたったら、どうしたと思う?」
いろんな意見が出てきました。
「ブランコにのったばかりだったから、話が終わったらまた乗っていいと思う」
[少ししか乗ってなくても、一度降りたら、ほかの友だちに貸さなければいけないと思う」
「降りて綱をもっているのはズルイ」
「でも、まさのぶくんはみんながイヌのこと(まさのぶくんが拾って来た捨てイヌのこと)を話かけて、しかたなく降りたんたから、また乗ってもいいとおもう」
「でも、ふみこちゃんに石をぶつけたのはよくない」
「そうだ、そうだ」
「でも、まさのぶくんのこと、よーくきいたらあんまり悪くない」
「ボクもそう思った。ごめんね、まさのぶくん」
「ごめんね、ごめんね」
そのとき、ふみこちゃんがまた泣き出して、
「あたしが悪るかったの……ごめんね」
いつの間にかみんなが涙声になっていました。

そして、まさのぶくんが、のどの奥から声をふりしぼるようにして、こういったのです。
「ボクね……ずっと前から保育園に来てる……けど……今日だけが楽しかったよー」
あとは激しく泣きじゃくる姿に、私まで涙を押さえることができませんでした。「悪い子」というレッテルをはられた、この子がいままで、どんなにさびしい思いをしてきたか。みんなの理解を得られたいま、どんなに胸を熱くしているか。ひしひしと感じられたからです。声をふるわして泣きあっているこの子たちすべてを、抱きしめてやりたいと思いました。

この日を境に、まさのよぐんはガラリと変わりました。ピタッとけんかがやんだのです。クラスのみんなと協力することもできるようになり、持ちまえの良い素質をぞんぶんに発揮して、クラスの中心になってくれました。

まわりの友だちや、そのお母さんたちの見る目が変わったことが、まさのぶくんを変えてくれたのでした。

本吉園子先生からのメッセージ(全7回)