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第4回 「けんか その2」

けんか両成敗などといいますが、幼児のけんかを裁くのは本当にむずかしいことだと、いつも思います。いや、どちらが良い悪いとか、理非を正すとか、裁くとか……そういうことでは、幼児のけんかの全体像はつかめないのではないでしょうか。幼児のものの考え方、生活のしかたそのものが、けんかの中に投影されているのですから。

むしろ、大人は子どもたちの言い分を整理する役にとどまること。解決法を探すのは子どもたちにまかせること。それが、けんかを成長させてやる方法であると、私は思います。

ある日、女の子同士のすさまじい、とっくみあいが起こりました。きよえちゃんが補助なし自転車に乗って、いい気分で園庭を回っていました。すると、ジャングルジムの下で色水屋さんごっこをやっている仲間たちがいました。

「あら、なんの色水なの?見せて」
きよえちゃんは自転車を乗り捨てると、色水屋さんの中に入っていったのです。ちょうど園庭の片隅には、オシロイバナの咲き乱れている季節で、色水屋さんたちは濃淡の美しい紅色の水を小さな入れ物にせっせと作っているのでした。しばらくその作業に見入り、自分も手伝ったりしていた、きよえちゃんが、ふと思い出してうしろを振り返ると、あらあら、自転車がなくなっていたのです。

「たいへん、自転車がない!」
ジャングルジムをとび出して、グルリと園庭をながめると……なんとくみこちゃんが気持ちよさそうに自転車に乗っているんです。
 「こらっ、くみこちゃん。それ、あたしの自転車よ。返して」
 「だって、捨ててあったじゃない。だれも乗っていないからあたしが乗ったのよ」
 「あたしはちょっと降りていただけよ」
 「でも、そんなことわからないもの」
 「返して!」
 「いや!」
ふたりはロからつばを飛ばして怒鳴り合っていましたが、やにわに手をのばすと、たがいの髪の毛をつかんでひっぱったり、たたいたり。砂ぼこりの舞い上がるほど、ものすごい争いになったのです。

若い保母がとび出していって、やっとふたりをひきはなし、わけを聞きはじめました。が、ふたりはますます興奮して「かえして!」「ダメ!」と意地になってののしりあうばかり。そこでわたしは、ふたりの周囲に集まってきていた子どもたちに意見を聞いてみたのです。

「ねえ、みんな。きよえちゃんはちょっとだけ自転車をおりたつもりだったんだって。でもくみこちゃんは、きよえちゃんの自転車だと気がつかなかったのね。両方ともいい分があるから困っちゃうね。こんなとき、どうしたら、けんかしないでうまくいくと思う?」
すると、ひとりの子がいいました。

「きよえちゃん、みはりをつけとけばよかったのに」
その意見にみんなが「そうだそうだ」とうなづきます。当のふたりも、耳をすましているじゃありませんか。わたしはなお尋ねました。
 「じゃ、だれか見張りしてって頼まれたら、見張りになってあげる?」
 「うん、いいよ」と子どもたち。

たしかに子どもたちの生活を見ていると、見張り番という役割があるものです。だれかに頼まれて、あるものを見張っている。ほかの子が持っていってしまおうとすると
「ダメ、それは○○ちゃんのだよ、ボク、みはり」なんていってる。
大人の目からするとまったく滑稽なのですが、子どもの世界には、こんな所有権の確立のしかたもあるのです。きよえちゃんの自転車にも、この見張りをつけておけばよかったのに……という意見は、まったく私たちの気づかない名案でした。
 「きよえちゃん。みんなが、見張りしてあげるっていってるよ。この次からは、そうしたらどう?」
というと、「うん」とすなおにうなずいて、きよえちゃんもくみ子ちゃんも万事解決のほほえみを交わしたのでした。

子どもたちが散っていったあと、さっきの保母がつくづくいいました。
 「本吉先生。わたしがうまく裁けなかったわけ、わかったわ。わたしは最初から、きよえちゃんが悪いという先入観が頭の中にあったんです。だから、どんなに公平に裁こうとしても、あの子たち納得しなかったのね」

そのことばを聞いて、わたしも無意識のうちにやっていたことを、あらためて意識にのぼらせたのです。それは、けんかを解決するときには絶対的に両方の子どもを信じていてやらなければならないということ。
「この先生は、必ず自分のことを見ていてくれる」という安心感がなければ、子どもは決して本音を吐かないし、こちらのいうことに納得もしないのですから。 ことに、しょっちゅうけんかざたを起こす子どもには、 必ず心の中にさびしいものがひそんでいるのです。

「愛されていない」「正当に評価されていない」と思うことが、いじわるな行動をひき起こす。 そのために「悪い子」というレッテルをはられ、ますます彼の不満を拡大して いく……その悪循環に気づかないおとなが多すぎるのではないでしょうか。

子どもをとことん信じてやること。そして自信を出させるような方向へと指導してやること。 けんかの指導も、この基本につきると思うのです。

本吉園子先生からのメッセージ(全7回)